2015年9月23日水曜日

書簡集 8

 九月二十三日

 東京でもちらちらと彼岸花の咲いているのを目にする。そろそろ金木犀の甘い香りも、住宅街に漂い始めることだろう。昼は穏やかで短く、夜は音もなく続く。季節は目に見えるあらゆるものを変えてゆく。コンクリートの色も。そして目には見えないものも。アスファルトの響きでさえも。

 秋の夜は冷たい。冬の夜とはまた違った冷たさをしている。冷たいからこそ、君に宛ててこんな手紙を書いているのかもしれない。冷たい空気にあてられて縮こまったこころは、こういう腐敗が始まる直前のにおいがすることばが好きなのだ。それは僕の自然本性から来るものかもしれないが、そうなのだ。

 温度の変化によって大きさが変わるのは物質だけではないみたいだ。こころ、魂、霊魂、精神、そんないろいろな呼ばれ方をするその当のものもまた大きさが変わる。それは実験によって明らかだ。
 ピアノを一台用意して、好きなように鳴らせばいい。試すように、いろんな和音を弾いてみるのだ。すると、季節によって、時間によって、さらにはこころが受け入れているさまざまな情念によって、こころが最も共鳴する音は違ってくる。七度の音程がいまとても心地よいのだ。ファとミ。不思議と響く。

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