2013年11月3日日曜日

救済なき物語

 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語を観た。テレビ版の放映からずっと好きな作品が完結してしまったので、私の中の物語がまた一つそこで止まってしまった。観た感想めいたものと、それをみて考えたことを、粗雑なことではあるがかんたんに記しておこうと思う。映画や小説などの作品に対して、外的なものを持ち込んでその作品をよく理解し、批評しようという立場はあまり私の好みではないので(もちろんそうした立場を否定するわけではない)、内容にはあまり深く踏み込まずに、映画を観た私の側で現れたことについて書こうと思う。いわゆるネタバレはあまり多くはないと思うが、感想にはもちろん内容もある程度含まれることになると思うので、注意していただきたい。

 まずは軽く映画を振り返ってみようと思う。
 私は映画をあまり観ないのだが、こうしてたまに観るたびに驚く。映像の細やかな動き、それに合わせた効果音、更には背景で流れる音楽。これらが一つになる素晴らしさを感じる。そして物語の世界がそこで一つ完結する。観るたびに思うことではあるが、やはりなかなか映画を観るようにはならない。
 作品についてであるが、最初の数分は少し戸惑った。というのも、アニメ版第一話の映像から始まるのだが、まどかをはじめ、他の魔法少女の指にはめられた指輪が強調される。そうした点において、映画の前編二作において構築された世界との繋がりが見えにくいからだ。
 音楽については三拍子のものが多く(印象に残ったものが三拍子だったためであるが、三拍子ではない曲があったのかどうかは把握していない)、映像もそれに合わせてであろうか、ミュージカルや劇のような始まりをしたのが非常に印象的だった。魔法少女への変身においても、音楽とやや眺めの踊りのカットによってそれがなされるのが今までと違ってみえた。変身の最後の一瞬に、それぞれの少女が魔女となる時のモチーフのようなものが現れたのも強く記憶に残っている。
 そうした演劇調の表現が、中盤になってほむらの創りだした世界であることが明らかにされ、物語は終盤へと向かう。映画の最後には、まどかが再構築した世界がさらにほむらによって書き換えられ、アニメ版第一話の学校のシーンが、微妙に違う形で、繰り返される。第一話に描かれた場面で、映画の幕も閉じられることになる。

 映画は素晴らしかった。映像やらのどこがすごいなどのような褒め方は出来ないので、いくつか気になったことを挙げることにおいて感想を述べたこととしよう。
 物語が幾重にも重なっていた。例えば、この作品も、前編一作目のようにアニメ版第一話の情景から始まり、アニメ版第一話の情景で終わる。ほむらの魔法のように、幾度と無く同じ時間を私たちが体験していることになる。その描き方が面白いと思った(そういう描き方は個人的に好みである)。さらに、円を象徴させることがらが非常に多く、物語全体をそのモチーフで貫いているあり方が気持よかった。例えば、円のモチーフや「円環の理」という言葉、第一話の映像で始まり、第一話の映像で終わるという一種の円構造など(あとは、ただのこじつけであるが、作中の音楽でワルツ(円舞曲)が流れていたのも面白いと思った。)。

 この作品を通して、まどかとほむらが決して同時に救われることのない世界が描かれていた。それどころか、まどかもほむらも、ほむらが世界を幾度繰り返しても、救われることは無かったのではないだろうか。いったい誰が救済されたのだろうか。
 私たちは物語のうちで決して救われることはない。私たちは、物語の終了とともにその世界から追い出され、いくら望んでも、それからの続きを知ることは出来ない。物語の終わりは、私たちが一時的に組み入れられた世界の終焉であり、すなわち私たちの、「物語の世界にいる」というあり方が全てその物語に対して閉ざされてしまう。私たちは、物語を繰り返すことでしか、その世界の中にあり得ず、物語の終焉とともにその外へと追い出される。物語のうちで運命を持たない私たちは、そもそも救済の対象とはなりえない。しかし、救済されるのは、そもそも私たちの視点でなければありえない。というのも、映画の全体を通して、すべての人物の交流をすべて見て、そのうえで物語の最後に置かれた誰かの運命が浄化されるのをみて、私たちが救済されたと思うのだ。救いは物語中で誰かに与えられるかもしれないが、その救いを感じることが出来るのは、救われた誰かではなく、常に俯瞰する私たちでしか無い。
 終わりの全てがよくなければ終わりはよくない。全て良くなければ、決して終わりは良くなることはない。登場人物を取り巻く世界が救われない限りは、俯瞰する私たちも決して救われることはない。そういう意味でまどか☆マギカは、誰ひとりとして、それはわたしたちを含んだうえで、決して救済のない物語であったと思った。

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