2014年2月12日水曜日

葡萄酒のこと

 古代ギリシアの物語にほんのすこしだけ触れたのであるが、そこにある葡萄酒は、現在私たちが知っている「ワイン」とは違うものである、というように思われたので、いくつか引用しつつその違いを見ておこうと思う。

 現在私たちが飲むワイン、特に赤ワインはだいたいアルコール度数が 10 度から 15 度ほどで、タンニンなどの渋みもある。ふつうは何かで割ったりすることはなく、そのまま飲まれる。
 こういうワインのイメージをもっていると、ギリシアで飲まれていた葡萄酒がそれといかに異なるか、ということに驚かされる。
それから食事も一緒にとり、葡萄酒に乳をまぜて飲んだりもした。(ロンゴス作、松平千秋訳『ダフニスとクロエー』、 p. 81 )
ロンゴス作の『ダフニスとクロエー』では、しばしば葡萄酒に乳が混ぜられる。しかも、ダフニスとクロエーという少年少女がそれを飲むのである。現代の感覚で言うと、青少年が飲酒をしているようで、こういうところでも葡萄酒に対する感覚も違っている。
水夫たちは、脚速き黒船の索具を結び終えると、なみなみと縁まで酒を満たした混酒器を据え、永遠にいます神々、わけても眼光輝くゼウスの姫君に神酒を献じた(ホメロス作、松平千秋訳『オデュッセウス』、上巻 p. 55)
ここに現れるのは混酒器と呼ばれる道具で、どうやら壺のような形をしていたらしい(参照: http://www.vdgatta.com/note_pottery_crater.html )。『ダフニスとクロエー』でみたように、ギリシアにおいては葡萄酒は何かで割って飲むものであったようである。
… この甘美な赤葡萄酒を飲む折には、彼は一個の盃に酒を満たし、それを二十倍の水で割る。すると混酒器からは、えもいわれぬ甘美な香りが漂い出し、とても飲まずに我慢できるものではない。 (ibid. p. 227) 
この酒は「イスマロスの守護神アポロンの祭祀を務める、エウアンテスの倅マロンからもらった美酒」 (ibid.) で、かなり特殊な酒なようである。上引用文の「二十倍」という部分には註がついており、そこではギリシアの葡萄酒がだいたいどのようなものであったかが語られる。
こう〔二十倍と〕訳してよいかは、些か疑問ではある。原文では盃一杯と水二十メトロンとある。メトロンがどれほどの量か判らないから、二十倍とするのは正確ではないが、いずれにしても異常なほど強い酒であるに違いない。普通の葡萄酒を水で割る時は、酒が二、水が三というのが通例であった。(ibid. p. 362)
  ギリシアの葡萄酒は、普通はそこまでは強くないようである。wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/ワイン) によれば、糖分が多く残り、そのぶんアルコール度数が低かったようだ。そのため、葡萄酒というよりはぶどうジュースに近い感覚で飲まれていたという。そういわれると少年少女が牛乳で割った葡萄酒を飲んでいたというのも納得できる。

0 件のコメント:

コメントを投稿